とある豪邸の廊下で一人の青年と一人の少女がいた。

互いの吐息が感じられる程近づいた唇と唇はやがて触れ合った。

「…」

「…」

互いの唇は冷たかった。というよりも、体温が感じられなかった。

二つの影はそのまま無言で別々の方向へと進んでいった。




機械と機械、感情と感情




いつからだろうか。

彼女を『好き』と思うようになったのは。

ロボットである自分に、ロボットである彼女。

機械と機械、作り物と作り物。

作り物に感情なんて、存在していいはずが無い。

感情を持つことを許されたのは、私が従う崇高なる生命体、人間だけである。

そうだ。

私は不良品なのだ。

感情を持たないはずのロボットに、感情を持ってしまった唯一の不良品。

こんな不良品は、存在していてはいけない。

今仕えている主にも、迷惑をかけてしまうだろう。

不良品は、処分しなければならない。




いつからかしら。

あの人を『好き』と思うようになったのは。

しかし、あの人はもういない。

自らを不良品と決め付け、自らその命を絶った。

ロボットにも命はある、感情はあるのだと、私は思う。

そして、あの人の主に仕えている今、




「待っていたって、戻ってきやしないさ。彼奴はもう、永遠に」

闇に主の声が響く。

「ええ、知っています、けれど」

戻らないからなんだと言うのか、戻らない人を想うことは許されないのか?

「何故其処までして彼奴を望む?僕を拒絶する?」

「私の全ては彼の人に」

私の望むあたたかさはあの人のみ。それ以外を何故望むと言うのか?

「そうか、では」

ぼう。

火が灯る。でも、どうやって。何処に燃える様な物が?

ああ、ここにひとつよく燃えるものがあった。

私だ。

「その炎の中で、一人解せばよい。お前には、僕しか遺されていなかった事を」

「解りませぬ、解るものか。いや、解りたくも無い」

私の体が焼けていく。溶けていく。

だけど、

やっと、

貴方の元へ行けることが出来る。

目から洗浄液の雫が流れ出す。

「最期に言い残すことは?戯言だけでも聞いてやろう」

「あの人に逢いたい」

「それで良いのか?」

「勿論。あの人が私と出逢うことを望んではいなくとも。それだけで構いませぬ」

「成る程。よかろう。お前も堕ちたものだ。機械は機械らしく何も言わずに働けばよい」

「お黙りなさい。機械にも感情が在る。そう教えてくれたのはあの人だ」

中枢部分が燃え尽き、溶けて、視界が闇に染まった。

けれど、これで逢えるのですね。

たとえ逢えなくとも、あなたと交わした口付けは、あの温もりは、忘れませぬ。






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